「東京を捨てて正解だった」—コロナ禍をきっかけに長野移住、リモートワークで年収1.5倍を実現した32歳の選択

長野県安曇野市の古民家カフェで、田中雄介さん(32)と待ち合わせた。東京のIT企業で働いていた彼が、2022年春に長野県に移住してから約3年。リモートワークを活用した新しい働き方で、都市部時代を上回る収入を得ているという。

「正直、最初は不安でした。でも今思えば、あの決断が人生のターニングポイントでしたね」

田中さんは穏やかな表情でそう振り返る。

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きっかけは「満員電車への疑問」

田中さんが移住を考え始めたのは、コロナ禍でリモートワークが普及した2020年のことだった。

「毎朝1時間かけて満員電車に揺られて、狭いオフィスで8時間過ごして、また1時間かけて帰る。この生活に何の意味があるんだろうって、ふと疑問に思ったんです」

当時、Webエンジニアとして都内のスタートアップで働いていた田中さん。リモートワークの導入で「場所に縛られない働き方」の可能性を実感したという。

「会社の業績も良くて、リモートでも十分成果を出せることが証明されました。それなら、なぜ東京にいる必要があるのか、と」

移住先選びは「直感」を重視

移住先として長野県を選んだ理由について、田中さんはこう話す。

「最初は沖縄や北海道も考えました。でも、実際に足を運んでみて、安曇野の空気感に一瞬で惹かれたんです。山が近くて、でも生活に必要なものは揃っている。東京からのアクセスも悪くない」

移住前の準備期間は約1年。週末を利用して現地を何度も訪れ、地域のコミュニティとのつながりを築いていった。

「移住って、場所を変えるだけじゃダメなんです。そこでどう生きるか、誰とつながるかが重要。だから時間をかけて準備しました」

年収1.5倍の秘密は「複業」にあり

移住後の田中さんの働き方は、東京時代とは大きく異なる。

本業のWebエンジニアとしての仕事に加え、地元企業のDX支援コンサルティング、農業体験ツアーのWebサイト制作、移住希望者向けのオンライン相談など、複数の収入源を持つ「複業スタイル」を確立した。

「東京にいた頃の年収は480万円でしたが、今は720万円程度になりました。本業だけでなく、地方ならではのニーズに応える仕事が意外と多いんです」

特に好調なのが、地元企業のデジタル化支援だという。

「地方の中小企業は、IT人材不足が深刻です。でも、東京の大手コンサル会社に頼むほどの予算はない。そこで、地元に住んでいる僕のような人材の需要が生まれる」

生活コストは半減、豊かさは倍増

経済面でのメリットは収入増だけではない。生活コストの大幅な削減も実現している。

「東京時代は1K8畳のアパートに月12万円払っていました。今は築100年の古民家を月4万円で借りて、庭では野菜を育てています。食費も、近所の農家から直接買えるので半分以下になりました」

時間的な余裕も生まれた。通勤時間がゼロになり、その分を趣味の登山や地域活動に充てている。

「土日は必ず山に登ります。平日も仕事が終わったら散歩がてら田んぼを見に行ったり。こんな生活、東京では絶対にできませんでした」

移住の「落とし穴」と対処法

一方で、移住生活には課題もあったという。

「最初の半年は孤独感がありました。東京の友人とは物理的に会いづらくなるし、地元にはまだ深いつながりがない。メンタル的にきつい時期もありました」

この問題を解決したのが、積極的な地域参加だった。

「消防団に入ったり、お祭りの実行委員になったり。最初は面倒だと思ったんですが、これが地域に溶け込む一番の近道でした」

また、インターネット環境の整備も重要なポイントだったという。

「仕事で使うので、光回線は必須。事前に通信環境をしっかり調査して、工事の段取りも済ませてから引っ越しました」

これから移住を考える人へのアドバイス

最後に、移住を検討している人に向けてのアドバイスを聞いた。

「一番大切なのは『なぜ移住するのか』を明確にすることです。東京の生活に疲れただけの逃避では、きっと失敗します。移住先で何をしたいか、どんな生活を送りたいか、具体的なビジョンを持つことが重要です」

また、経済面での準備も欠かせないという。

「移住直後は収入が不安定になる可能性があります。最低でも半年分の生活費は貯めておいた方がいい。そして、移住先でどうやって稼ぐかを事前に考えておくことです」

「移住は手段、幸せは自分で作るもの」

取材の最後、田中さんはこう締めくくった。

「移住すれば自動的に幸せになれるわけではありません。移住は手段であって、目的ではない。大切なのは、新しい環境で自分らしい生き方を見つけること。僕の場合、それがたまたま長野だっただけです」

夕日に染まる安曇野の田園風景を背に、田中さんは満足そうに微笑んだ。彼の選択が正解だったかどうかは、これからの人生が証明していくのだろう。


取材後記

コロナ禍をきっかけに注目された地方移住。一過性のブームではなく、働き方の多様化と共に定着しつつある。田中さんのように、リモートワークを活用して地方で新しいキャリアを築く人は今後も増えていくだろう。ただし、成功の鍵は綿密な準備と明確なビジョンにある。移住を検討している読者の参考になれば幸いだ。

(この記事は2025年7月に実施した取材に基づいて作成されました)

取材・文:取材.com編集部

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